国立国際医療センター エイズ治療・研究開発センター
 

第1章「HIV 検査とデータの見方」では、HIV 感染症の診断に必要な検査と、関連検査のデータの解釈について説明します。
まず、「医療機関を受診する動機」からです。
患者は、しばしば以下のような理由から医療機関を受診し、その結果 HIV 感染が判明します。
  1. 患者がコンドームを使用しないなどの unsafe sex のあと、HIV 感染が心配になり、自主的に医療機関を受診する場合。
  2. HIV 以外の他の性行為感染症の罹患をきっかけとして受診する場合。
  3. HIV の初期感染を発症し、医療機関を受診する場合。この場合、伝染性単核球症やインフルエンザに類似した症状を呈します。
  4. HIV 感染症の慢性期の症状である持続性の下痢、体重減少、リンパ節腫大を主訴に受診する場合。
  5. 免疫不全が進行し、口腔カンジダ症やニューモシスチス肺炎などの日和見感染症を発症して受診する場合。
  6. 妊婦検診など、他の理由に関連したスクリーニング検査として HIV 検査が実施される場合。

HIV 感染者を早期発見するために、特に次のようなケースでは、医師が患者に積極的に HIV 検査を勧める必要があります。
  1. 梅毒、淋病などの STD に罹患している、あるいは罹患した既往のある患者。
  2. High risk グループと考えられる患者。具体的には、男性同性愛行為が明らかである患者や、不特定多数のパートナーをもつ性行動の活発な患者、HIV スクリーニング検査が確立されていない 1985年以前に輸血や血液製剤の輸注歴のある患者、が含まれます。
  3. 妊婦。感染妊婦からの母子感染は 25%という高い確率で起こるため、妊婦は全例で HIV 検査を実施すべきです。
  4. 活動性結核患者。これは全例ではなく、若年者、粟粒結核、縦隔リンパ節腫脹が著しい患者が対象となります。

HIV 検査には、大別すると、抗体検査であるスクリーニング検査と確認検査、そして抗原検査である PCR 法があります。
ELISA 法、および PA 法はスクリーニング検査です。感度、特異度はどちらもほぼ同等です。
スクリーニング検査で陽性となった場合は、確定診断のために、確認検査である Western Blot 法を行います。電気泳動法により、ウイルスタンパクを分子量に従って分画し、それぞれに対する特異的抗体を検出することにより判定するものです。
PCR 法は、HIV そのものを検出する検査です。抗体が陽転化するには6週間以上を要するため、急性 HIV 感染が疑われる状況で抗体検査が陰性の場合には、抗原検査である PCR 法でウイルス自体を検出することにより診断されます。

スクリーニング検査では、細胞培養で増殖させた HIV 抗原を用い、それに対して反応する患者血清中の抗体を検出することで行われます。ただし、偽陽性、偽陰性には注意が必要です。
偽陽性、すなわち間違って陽性と判定されることがある病態には、次のようなものがあります。
  • 妊婦、多産の女性
  • 血液腫瘍
  • 膠原病
  • 原発性胆汁性肝硬変
  • 原発性硬化性胆管炎
  • アルコール性肝炎
  • ヘルペスウイルスなどの DNA ウイルス感染症
この中で、妊婦におけるスクリーニング検査では最近、偽陽性率が高いことが指摘され問題となっています。

一方、感染から抗体出現までの6週から8週程度の期間、いわゆるウインドウピリオド(Window period)では、たとえ感染していてもスクリーニング検査は偽陰性となります。 感染が疑わしいにもかかわらず、スクリーニング陰性の場合は、3ヶ月以上経過してからの再検査を勧めるか、あるいは HIV-RNA PCR 法による診断が必要となります。

この図は、HIV 感染症の診断までの検査の流れを示しています。
HIV 感染の確定診断は、まずスクリーニング検査で陽性が判明し、その後、確認検査で陽性を確認することによって行われます。ウインドウピリオド期では、スクリーニング検査あるいは確認検査で陰性や判定保留となり、 PCR 法で診断されることがありますが、その場合でも必ず3ヶ月後に抗体検査の再検査を行い、これらの検査が陽転化するのを確認する必要があります。

HIV に感染すると、HIV 固有のタンパク質である Env蛋白、Gag蛋白、Pol蛋白に対して抗体が産生されます。western blot 法は、これらの蛋白のそれぞれに対して抗体が産生されていることを証明することにより、HIV 感染を証明するものです。

これは米国 CDC による western blot 法の判定基準です。3本の Env蛋白および Gag蛋白である p24蛋白の4本のうち、2本に対して抗体が産生されれば陽性と判定されます。 多数のバンドが見られる場合でも、基準を満たさない場合は判定保留とされ、一定期間ののちに再検査を行うことになります。

HIV 感染症において重要な臨床的マーカーについて説明します。
HIV 感染症では、体内の CD4 陽性Tリンパ球数が減少することによって免疫不全が起こります。CD4 陽性Tリンパ球数は、HIV 感染症の進行度と、現時点での免疫力を表す重要な指標です。 正常値は血液1μl あたり 700〜1,300個です。CD4 陽性Tリンパ球数の測定は一定の誤差が存在するため、測定のたびに変動します。臨床的に意味のある CD4 陽性Tリンパ球数の変化は、細胞数で 30%以上、割合では3%以上の変化があった場合です。

CD4 陽性Tリンパ球数は、血液検査で直接測定することはできません。 図は白血球の構成成分を示していますが、このうち、測定値として得られるのは、白血球数、リンパ球の白血球全体における割合、そして CD4 陽性Tリンパ球のリンパ球全体における割合です。 これらの測定値を用いて、CD4 陽性Tリンパ球数を計算することになります。

CD4 陽性Tリンパ球数の計算例を示します。
白血球数が 6,000、リンパ球が 40%、CD4 陽性Tリンパ球が 30%という結果が得られた場合、この症例での CD4 陽性Tリンパ球数は、6,000 × 0.4 × 0.3 で 720個と算定されます。 臨床現場ではしばしば、白血球数に直接 CD4 陽性Tリンパ球数の割合をかける、すなわち 6,000 × 0.3 という計算をしてしまい、実際よりも高い CD4 陽性Tリンパ球数を算出してしまう間違いが見られるため、注意が必要です。

血漿中 HIV RNA 量、すなわち HIV のウイルス量は、無治療の患者の場合はその後の進行速度の指標として、そして治療中の患者の場合は治療成功の指標として重要です。 現在、400コピー/ml まで測定可能な通常法と、50コピー/ml まで測定可能な高感度法の2種類の検査が実施可能です。この検査も一定の誤差が存在するため、測定のたびに変動しえます。 値は最大で3倍から 1/3 まで変動するとされているため、臨床的に意味のある変化としては、実際には約10倍程度の変動があった場合とするべきです。

血漿中 HIV RNA 量は、その後の予後と関連していると考えられています。この表からも分かるように、ウイルス量が高い場合には、その後の CD4 陽性Tリンパ球数の減少速度が速いことが知られています。

HIV 患者の初診外来では、CD4 陽性Tリンパ球数、血漿中 HIV RNA 量の測定以外にも、これらの項目について定期的な検査を行います。 肝炎ウイルスについては、A、B、C 型ともに感染の既往についてチェックし、陰性の場合はワクチンの接種についても検討することが重要です。 眼科検診は CD4 陽性Tリンパ球数に関わらず、初診時に一度はチェックしておくべきです。 女性患者では、HIV で浸潤性子宮頚癌の頻度が高いことから、初診時はもちろん、それ以後も6〜12ヶ月ごとの婦人科検診が必要です。

ここからはいくつかの症例を見ていきます。
まず、急性レトロウイルス感染症の症例です。
主訴は発熱と意識障害。発熱および倦怠感が出現し、近医にて加療を受けましたが、改善せず、両側鼡径リンパ節の腫脹が出現しました。 入院後に抗菌薬治療が行われましたが反応なく、悪性リンパ腫疑いでリンパ節生検が予定されていました。術前検査にて HIV 抗体陽性が判明したため、当センター(ACC)に紹介入院となりました。 入院直後より意識障害が出現しました。入院時、意識は混濁しており、両側鼡径部のリンパ節腫脹、腱反射の亢進以外はとくに所見はありませんでした。

血液検査では、肝機能関連検査で異常が認められました。CRP も上昇していました。髄液では髄液圧は正常でしたが、リンパ球優位の細胞増加、蛋白増加が見られました。 Western blot 法で HIV 診断が確定しましたが、陽性バンドはすべてが出そろっておらず、バンドも非常に薄かったため、初期感染の可能性が示唆されました。 その後、陽性バンド数の増加とバンドの濃度の増強が確認されたため、急性レトロウイルス感染症と診断されました。この症例では、全く治療を行わず、経過観察のみですべての症状が寛解しています。

次の症例は、血友病Aの 27歳男性です。
2001年11月から d4T / 3TC / NFV による治療を行っており、1年以上にわたってウイルス量が検出限界に維持されている経過良好の症例です。

本症例の検査データの推移です。ウイルス量は検出限界以下を維持し、CD4 陽性Tリンパ球数も順調に増加していました。自覚症状はありませんでしたが、2002年7月より GOT、GPT の軽度上昇が見られていました。 2003年1月29日の採血結果では、GOT 495、GPT 639 と急激な上昇を認めたため、d4T による乳酸アシドーシスを疑い、直ちに HAART(Highly Active Anti-Retroviral Therapy)を中止しました。 同時に測定した乳酸値は 57と正常上限値の 18を大きく上回っていました。乳酸アシドーシスは d4T を内服の患者では常に注意しておくべき重篤な副作用です。 肝酵素の上昇が見られたり、尿酸や中性脂肪の上昇が初期の検査異常としてしばしば見られたりします。また、本症例のように急激に発症することが多く、発症した場合には HAART 中止などの迅速な対応が必要となります。

症例3例目は、2003年2月にニューモシスチス肺炎の発症を機に HIV 感染が判明し、2003年5月から AZT / ddI / EFV による治療を開始した患者です。

治療開始以降、ウイルス量は順調に減少し、CD4 陽性Tリンパ球数もそれに伴って増加が見られ、治療経過は良好と考えられていました。 しかしながら、10月29日の外来受診時の検査では、血小板が 1.1万に急激に減少していることが分かりました。 患者は翌日再受診し、血小板が低いことを再確認した上で、緊急入院となりました。精査の結果、HIV 関連血小板減少症と診断されました。

HIV 患者の外来経過観察で重要なことは、採血データを常に確認することです。
症例呈示した、d4T の長期投与による高乳酸血症や、血小板減少症の発症など、明らかな自覚症状がなくても急激に患者が重症化していることがあるため、注意が必要です。