国立国際医療センター エイズ治療・研究開発センター


第2章「初診時の対応 コーディネーターナース編」について説明します。
当センター(ACC)では、HIV専門医療機関として、主治医とともにコーディネーターナースを患者担当制で配置し、医療と患者をつなげる役割を担っています。
ここでは慢性疾患であるHIV感染症の診療体制として、医師以外のスタッフが担うべき役割を紹介します。

このグラフは、当センター(ACC)における患者数の推移です。
オレンジのグラフが年間の新規受診患者数で、ブルーのグラフが血液製剤感染による患者数です。
黄色の折れ線は、累積登録患者数を表しており、近年では年間200名を超える新規受診患者数となっています。
セカンドオピニオン患者も少なくありません。
国立国際医療センターでは、1995年からHIV診療を開始しており、1997年は、当センターACC開設に伴い、血液製剤感染による患者が全国から受診しています。
また2004年は、HIV/HCV重複感染のシンポジウムを全国で開催したため、血液製剤による感染者がセカンドオピニオンで多く受診しました。

このグラフは、紹介元の機関の種類を年次経過で示したものです。
2000年前後はオレンジ色の「拠点病院」および黄色の「一般病院・クリニック」からの紹介が多くを占めていましたが、 2003年、2004年と徐々に青色の「ブロック拠点病院」、紫の「その他」、赤色の「院内他科からの紹介」が増加しています。
「院内他科からの紹介」では、救急、呼吸器科、皮膚科、耳鼻科、産婦人科からの紹介が多くみられます。
「その他」の中には、紹介状がない人、献血での発見例、インターネットで自己検査キットを購入した人、などが含まれています。

このグラフは、新規患者が外来初診であったのか、または初診入院であったのか、という初診の場所を示しています。
2003年は204人のうち、外来初診だったのは164人で、初診入院は39人、そのうちエイズを発症していたのは25人でした。
2004年もほぼ同比率で、外来初診だったのは199人、初診入院は45人、そのうちエイズを発症していたのは31人でした。
このように、近年の新規患者の傾向としては、初診入院は4分の1ほどですが、それ以外の4分の3は外来初診であることが分かります。


このグラフは、新規患者の年齢別にみた年次推移を示しています。
1997年はACC開設に伴って血友病患者が全国から受診した年であるため、他の年とは傾向が異なります。
1998年以後の傾向では、30歳代、20歳代、40歳代が多くを占め、とくに水色の30歳代が著しく増加しています。
また、赤色の60歳以上の高齢者が徐々に増加しているのもわかります。

HIV感染者は青年期や壮年期の患者が多いので、治療と同時に「学業」や「仕事」が生活の中心となります。
女性患者の場合は、これに「妊娠、出産」というライフイベントが加わります。
このようにHIV感染患者に対するケアでは、他の慢性疾患患者と同様、治療とともに学業や仕事などが両立できるよう、 また、仕事内容や生活状況を把握したうえで、治療計画が立てられるように支援していくことが重要となります。


HIV感染症およびAIDS患者の治療とは、一般に抗HIV療法を指しますが、すべての患者がすぐに治療を必要とするわけではありません。
また、病状や合併症によっては、すぐには治療が開始できないこともあります。
図の赤い線は全体を示し、点線は治療開始基準を示しています。
HIV感染症は進行性の疾患であるため、免疫レベルの低下に伴い、いずれ治療を必要とする時期が訪れますが、 治療開始後のアドヒアランスが治療の成否と深く関係しているため、治療開始前に患者の生活を十分考慮した治療開始についての検討が必要となります。
実際に治療を開始するのは、図の「治療群」の部分です。
しかし、治療開始後には、副作用や合併症の出現などで治療を継続することが困難になる場合があります。
「治療困難群」の左側が「治療中断」あるいは「継続困難」群にあたります。
一方で、治療開始基準に該当しながら、他の疾患治療が優先されたり、患者側に開始の準備ができていないような場合は、 やむを得ず治療開始を延期することがあります。それが「開始困難」の部分です。
当センター(ACC)においても、「継続困難」と「開始困難」を合わせた「治療困難」群の患者が微増傾向にあるため、 より慎重に治療開始時期の決定および薬剤組み合わせの検討を行うようにしています。


当センター(ACC)における様々な現状から、HIV感染症患者の「外来ケア」の特徴を考えるために、「入院ケア」と比較してみました。
患者の症状としては、外来では無症状や軽症が多く、入院の場合は症状が出現している場合が多くみられます。 そのため、外来では「受診目的の理解」や「通院のためのモチベーション維持」が困難ですが、入院では目的が明確であるため、患者は治療に集中できます。
したがって、医療者主導という場面が生じても、患者は了解し協力的です。
しかし、外来では患者の生活が優先されがちであるため、患者主導となり、定期受診が難しくなることもあります。
介入の仕方も、外来では短時間のワンポイント介入となりますが、入院では、入院している一定期間の連続介入が可能です。
外来・入院のいずれのケアにおいても、治療と患者の生活との両立を意識した治療計画を立て、それが実践できるよう支援することが重要となります。


ここでは、当センター(ACC)の外来初診日のスケジュールと、コーディネーターナースの役割を見てみます。
患者は、受付で外来受診の手続きを行ったあと、コーディネーターナースによるオリエンテーションを受けます。
同時に体調の観察を行いますが、症状の有無によってその後の対処が異なってきます。
体調に問題がない場合は、体温、血圧、体重測定、朝食摂取の有無など、バイタルサインの確認を外来ナースが行い、その後医師による予診となります。
予診が終わると、血液検査や胸部レントゲン撮影など各種検査を行い、即時にすべての結果は揃いませんが、可能な限り得られた情報をもとに本診察を行います。
診察後は、コーディネーターナースによる患者教育および相談の時間があり、その後、会計・薬局へと進みます。

初診時の留意点としては、まず「緊張の緩和」を心がけ、声かけ、スケジュール説明を行い、短期的な見通しを説明します。
また、患者は漠然とした不安を抱いて受診することが多いため、「不安の軽減」として、問題点を整理し、それらを解決できるよう話を聞きます。 短期目標を設定することも一つの方法です。
そして、「安心の保障」として、当センター(ACC)では、診察終了以後にあらためて相談対応する時間を設けるようにしています。
初診時の目標は、「次回受診」です。
必ず次回受診につながるよう、初診時では親身に話を聞くようにし、丁寧に説明をするなどの対応に心がけましょう。


オリエンテーションの手順について説明します。
通常、初診受付からコーディネーターナースに初診患者の連絡が入り、コーディネーターナースが受付に患者を迎えに行きます。
そこで「症状の有無確認」を行い、症状がある場合は診察が優先となるため、速やかに外来に案内します。
特に、咳嗽、発熱、下痢、皮膚症状などの感染性の症状には注意します。
症状が無い場合は、専用の個室に、まず患者のみを案内します。
同伴者がいる場合は、病名を知っているかどうかを必ず患者本人に確認します。
コーディネーターナースは自己紹介し、受診目的を確認します。
次に、「初診日のスケジュール説明」を行いますが、所要時間は3〜4時間で、医療費については健康保険使用の3割負担で、 診察・検査代合計15,000〜20,000円ほどかかることを説明します。
ここで、医療費負担が難しいという患者については、ソーシャルワーカーに相談したり、初診時の診察内容や検査内容をあらかじめ医師と検討します。
以上のことを確認したら、コーディネーターナースは、それらについて、予診の医師や外来ナースに申し送ります。
初診日には情報収集をすることが重要になりますが、同じ質問を何度も繰り返すなど、 患者の負担が大きくならないようスタッフ間で情報の共有をはかり、十分に配慮します。
なお、スタッフ間で「情報を共有すること」を、あらかじめ患者から了解をとっておくことも必要です。


次に、患者教育について説明します。
まず最初に、コーディネーターナースは、診察をした医師から「今日の時点での今後の方針」など短期目標を含んだ情報収集を行います。
医師は、チーム医療として対応していることを患者に説明し、コーディネーターナースに引継ぎを行います。
続いて、患者から、病名告知を受けたときの状況を聞いたり、HIV感染症に関する知識を確認し、既往歴、性行動などについて確認します。
次に、当センター(ACC)では、独自に作成した患者用教材「患者ノート」を利用し、病気の経過、必要な検査項目、治療方法、開始基準、留意点、 および日常生活の留意点として易感染性、血液感染などについて説明します。
その際、説明を行いながら、必要な項目をノートに追記し、患者がいつでも確認できるようノート全体の使い方を説明します。
患者教育のポイントとしては、まず、医療者からの一方的な情報提供にならないように質問を織り交ぜ、一つ一つ確認しながら、 初回は質問しやすい雰囲気で進めるように心がけます。
患者教育の評価は、毎回の受診で行うようにします。


ここでは、患者からの相談内容について説明します。
初診の時点で患者から相談される内容として最も多いのは、「病気・治療に関すること」です。
「プライバシーの漏えい」に関する相談も多くみられ、健康保険を使用しているが会社や家族にどう説明したらよいかわからない、 また、身障者手帳申請時に役所でどう対応すればよいかわからない、などの相談があります。
このような相談には、基本的に会社に説明する必要はないこと、家族への告白は時期や内容を相談しながら進めていくこと、などを説明します。
役所からの情報漏えいを過剰に心配して、社会資源をうまく活用できない場合もあるため、申請する際には、 患者が役所のスタッフと十分コミュニケーションをとり、自分の不安や希望をきちんと告げられるよう支援します。
その他の相談では、「パートナーや周囲の人への告白」、「医療費」、「受診と仕事との両立」、「仕事内容や進路」、「恋愛・結婚・妊娠」などがあります。
ここで、HIV感染症患者によくみられる「パートナーや周囲の人への告白」を例に、具体的な相談への対処方法を考えてみましょう。

HIV感染症の患者は、治療法が進歩した現在でも、社会の偏見や誤解などのために、病気をもちながら生活することは容易ではありません。
また、理解者がいたり支援を受けていたりする場合と、そうでない場合とでは、患者の心理的な負担は異なるでしょう。
HIV感染症は性感染症であるため、性的接触があったパートナーや配偶者に検査を勧めることは、相手の健康管理にとってとても重要なことです。 しかし、検査を勧める際に自分の病名が相手に知られてしまうことになるため、ためらいを感じる患者も少なくありません。
相談者が、「パートナーや周囲の人への告白」を躊躇している場合、告白を躊躇する理由を確認し、予測される事態に対する対処法を一緒に考えることが大切です。
また、相談者が、告白を受ける相手の立場に立って考えられるように、告白時期や内容を話し合い、シミュレーションしていくことがとても有効です。
一方で、パートナーの感染の早期発見、早期治療のためにも、病名告白後に検査を勧め、 パートナーがHIV抗体陽性と判明した場合は病院受診につながるよう、患者はもちろん、パートナーに働きかけることが大切です。
告白が困難な場合は、パートナーを病院に連れてきてもらい、医療者が患者本人に代わって説明することも考慮します。
患者によっては、「病名を隠している」、「誰にも打ち明けられない」ことに対する心理的負担が少なくないため、 患者にとって「良き理解者」となり得る人への病名告白を支援し、一緒に対策を考えながら、患者が安心して医療に取り組めるよう応援しましょう。


医療費について説明します。
この表は、当センター(ACC)における健康保険利用による医療費概算です。
初診では、約1〜2万円、
再診で未治療の場合は、約6〜7千円、
再診で抗HIV療法を行っている場合は、約6〜7万円、
再診で抗HIV療法を行っており、身体障害者手帳による医療助成等がある場合は、約0〜2万円となります。
患者にはこれを目安に、高額な医療費対策として使用できる社会資源をあらかじめ紹介し、 経済的な不安を理由に受診を中断することがないよう、予防的に対処します。


ここでは、身体障害者手帳の申請から交付までの流れを紹介します。
治療開始前の準備として、医療費対策を考えておくことは、治療継続に有効です。
まず、患者が身体障害者手帳の申請に該当するかどうかを医療者が判断します。
この表は、初診から間もなく治療開始が必要なケースの場合です。
患者は、申請に必要な診断書や申請書などを準備するため、役所や福祉事務所など適切な窓口に問い合わせます。
患者が申請書を作成し、医師が診断書を作成します。
手帳の交付にかかる時間は、自治体によって異なりますが、申請から約4週間から6週間くらいかかります。
医療費助成を受けられる時期と、治療を開始する時期を見据えながら、治療開始の準備の1つとして進めていきます。


ここでは、初診患者に限らず、当センター(ACC)に通院中の患者とその家族から、どのような相談が寄せられているのかを見てみます。
平成16年10月の1ヶ月間に、コーディネーターナース6名が電話で対応した相談・連絡は「389件」でした。
うち、通院患者の相談は175件、患者家族の相談は42件でした。
相談内容については、「受診」に関するものをはじめ、「症状」に関するもの、「不安」に関するもの、「病状」に関するもので半数以上を占めていました。

電話相談窓口を設け、相談ができることを患者に示すことは、安心して在宅での医療を続けるためにも大きな効果があります。 また、副作用に関する情報提供や症状確認、さらに患者教育を行ったりすることもでき、症状の重篤化を予防することにもつながります。


HIV感染症の治療の基本は、自己管理です。
何らかの理由によって自己管理が難しいと判断された場合は、家族や、地域の医療・保健・福祉職との連携が重要となります。
服薬支援のアセスメントでは、以下のような「内服自己管理に関するアセスメント項目」を中心に確認を行います。
定期受診ができるかどうか、服薬管理ができるかどうか、依存疾患・合併症の管理ができるかどうか、母子保健の支援が必要かどうか、 自己観察ができるかどうか、ADLが低下しているかどうか、サポートがあるかどうか、外国人かどうか、ホームレスかどうか、その他、などについてアセスメントします。
初診の時から、このような視点で必要な支援を調整し、最適な治療のタイミングを逃がさないよう支援していくことが大切です。